ご挨拶
映画倫理機構 代表理事/映画倫理委員会 委員長
濱田純一
表現という行為には、人の全存在がかけられるという場面も少なくありません。とくに映画は、豊かな表現可能性を備えたメディアとして、芸術の分野も含めて高い評価を受け、大きな社会的影響力をもってきました。映画は時代への尖鋭な挑戦的表現を行いうるメディアでもあります。映画がもつこれらの性格は、社会的に規制の議論を引き起こす理由ともなっており、表現の自由と規制との調整はきわめて繊細さを求められる作業となります。こうした調整の場面で有効なのが、自律の仕組みです。
映画界では他のメディアに先がけ、約60年前に自主的な自律機関として第三者による倫理委員会を設け、言論・表現の自由を護るとともに社会や青少年に与える影響を考慮し、公開前に映画を審査して、映画がどの年齢層に向いているのかを観客に知らせてきました。現在は、R18+、R15+、PG12、Gの四つの区分に分類しています。「映倫マーク」は映画界が築いてきた日本の文化ともいえ、社会に浸透しています。そうした実績の上に、1980年の「日活ロマンポルノ裁判」では、裁判所が映倫を、「自主的な機関として映画の倫理水準の維持に真摯な努力を重ねてきて大きな成果をおさめている」と評価しています。
社会の価値観はつねに変容しています。時代のグローバル化の影響もあって、変容の仕方は多様であり、変容のスピードは急速です。こうした中で、「言論・表現の自由の確保」と「倫理の維持」を両立させることは決してやさしいことではありません。時には対立さえします。私たちはかつての検閲のような規制概念に陥ることなく、自由へのリスペクトと倫理の維持こそが映画の発展につながるという信念をもって、この二つの両立という目的を果たして行きたいと思っています。また、委員長の諮問機関である「次世代への映画推薦委員会」では、未成年者に見てほしい優れた映画を推薦するなど、社会の貴重な装置としてより信頼される映倫を目指して努力してゆく所存です。
濱田純一(はまだ じゅんいち)
1950年生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院法学政治学研究科にて法学博士。同大学新聞研究所、社会情報研究所を経て、大学院情報学環教授・学環長、同大学理事・副学長。2009年より2015年まで東京大学総長。専門は、情報法、情報政策。2015年より、東京大学名誉教授、放送倫理・番組向上機構(BPO)理事長。2016年、映倫委員に就任。2017年4月より一般財団法人 映画倫理機構 代表理事・映画倫理委員会 委員長。
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